全ての行動は、「行動の法則」によって起きるか起きないかを左右されます。
つまり、行動の法則を理解して扱うことができれば、ダイエットなどの自分が続けたいと思っている行動を途中で中断せずに続けたり、子どもにしてほしい行動をしてもらう、逆にやめてほしい行動をやめてもらうといったことができるようになります。
行動の法則を理解することは意外と簡単です。
しかし、理解して実践するとなると難しさを感じることが多くあります。
専門家であっても、行動の法則に基づいて実践することは簡単なことではありません。
それでも、法則について理解しておくことはあなたの役に立つでしょう。
行動の法則について理解できたとき、あなたは子どものどんな行動を目の前にしても途方に暮れることがなくなり、何らかの対策を思いつくことができるようになるでしょう。
応用編ってどういうこと?
今回は、記事のタイトルに「応用編」という言葉がついています。
「応用」と聞くと難しい印象を受けるかと思いますが、むしろ逆です。普段はお話することがあまりない、「基礎」についてお話します。
これまでは行動の理論や法則などの基礎的な知識に触れずに、「こんなときはこうしたら良い」といったような、日常の中ですぐに使えるようなことをお伝えすることが多かったです。
しかし、行動の法則について理解することで、より幅広く様々な行動に対応できるようになります。そういった意味で「応用編」となっています。
専門用語もいくつか出てきますので、苦手だなと感じる人は無理に読まなくても良いですよ。
今回の記事を読まなくても、日常の困りごとに対しては他の記事を読めば大丈夫です。
気が向いたときにでも読んでみてください。
行動分析学│行動の法則を研究する学問
今回お話する行動の法則とは、心理学の一分野である「行動分析学」において研究されてきたことです。
行動分析学とは、行動が増えたり減ったりすることに関する法則を明らかにする学問になります。
行動分析学は非常にユニークな考え方をするので、先に行動分析学についての特徴をお話しておきます。
最大の特徴│原因と結果を真逆に考える
行動分析学を理解しようとするうえでの最大の障害は、原因と結果の考え方が一般的な考え方とは真逆であるということです。
例えば、転んで怪我をしてしまったときのことを考えてみてください。
怪我をしてしまったことは(結果)、転んでしまったこと(原因)によります。
時間の流れとしては、転んだこと(原因)が先で、怪我をしたこと(結果)が後になります。原因が先で、結果が後です。
地震が起きて停電になってしまった場合でも、停電になってしまったのは(結果)、地震が起きたせい(原因)です。
決して、停電になったから地震が起きたとは考えませんよね。
つまり、今目の前で起きていることは、「原因が先」にあり、「結果は後」に起きるものと考えます。
だからこそ、行動の原因も同じように考える人がほとんどです。
自分に決意や覚悟が足りないから(原因)、ダイエットを断念してしまう(結果)
うちの子は我慢ができない性格だから(原因)、かんしゃくを起こす(結果)
学校が嫌だから(原因)、不登校になる(結果)
というように、ある行動がどうして起こるのか、なぜ起きたのかを考えた際に、人はその行動の前に何があったのかを考えて、見つけたものを原因とします。
しかし、行動の原因は一般的な考え方とは真逆だと伝えました。
つまり、行動の原因は行動の後にあります。
その行動がなぜ起きたのかを考えるとき、その行動の前に何が起きていたのかを考えるのではなく、その行動の後に何が起きていたのかを考えなければいけません。
行動の後に起きていることこそが、その行動の原因になっていると考えることが行動分析学を非常にユニークなものにしている理由です。
行動の原因は行動の後にある
ほとんどの行動は、行動の後に起きていることがその行動の原因になっていると伝えました。
「なぜその行動は繰り返し起きるのか?」と考えたとき、行動の直後に起きていることに目を向けるとその行動が起きた理由(原因)がわかります。
例えば、「スマホを見る」という行動が一日になぜ何度も繰り返し起きるのかを考えてみましょう。
一般的には、以下のように考える人が多いと思います。
調べ物をしたいと思ったから(原因)、スマホを見た(結果)
友達に連絡したいと思ったから(原因)、スマホを見た・操作した(結果)
ゲームをしたいと思ったから(原因)、スマホを見た・操作した(結果)
原因が先で、結果が後です。
しかし、もしスマホのバッテリーが切れていて電源が入っていないとしたらどうしょうか?
きっとスマホを見る人はいないでしょう。
つまり、「調べ物をしたいと思ったから」「友達に連絡したいと思ったから」などは、スマホを見るという行動の原因ではないということです。
本当の原因は、行動の後に起きていることです。
今回の例でいえば、スマホを見ることで「調べ物を知ることができた」「友達に連絡ができた」「ゲームができた」といったことが原因になります。
これらがスマホを見るという行動が繰り返し起こる理由であり、バッテリーが切れたらスマホを見なくなるのは、これらのことができなくなるからです。
行動分析学における行動の理由(原因)の考え方を、少しはおわかりいただけたでしょうか?
馴染みのない考え方だと思いますので、現時点で十分理解できなくても大丈夫です。
とにかく覚えていてほしいことは、「行動の後に起きていることが、その行動が繰り返し起こる理由」だということです。
行動の直後に起きていることが何よりも大事になります。
行動を強める「強化」の法則とは
好子│こうし
行動の後に起きていることが、その行動の原因であることをお伝えました。
そして、行動の後に起きることでその行動を今後も繰り返し起こりやすくしたり、行動の強度を強くしたりする原因のことを、専門用語では「好子│こうし」と呼びます。
好子│こうし
- 行動の直後に出現すると
- その行動を今後も繰り返し起こしやすくする
- 刺激や出来事、条件のこと
わたしたちは、ある行動をした直後に好子が出現したり増えたりすると、その行動をますます繰り返し行うようになります。
例えば、自販機でお金を入れていないのにボタンを押しただけでジュースが出てきたとしましょう。
あなたは驚くかもしれませんが、その後もボタンを押すのではないでしょうか?ボタンを押せば好きなジュースが出てくるのです。
周りに人はいないので、見咎められることはありません。何度もボタンを押してしまうでしょう。
なぜボタンを繰り返し押すのかというと、ボタンを押せばその直後にジュースという好子が出現するからです。
先ほど例に挙げたスマホの場合も考えてみましょう。
一日の間にスマホを何度も見たり操作したりする人は多くいると思いますが、それはスマホを触ることで「わからないことを調べられたり」「LINEで友達に連絡できたり」「ゲームができたりするから」という理由が大半でしょう。
これらの理由は、スマホを触る行動を何度も繰り返し起こしていると考えられることから好子であるといえます。
好子とは読んで字の如く、好きなもの、好ましいものと解釈することができます。
ジュースだったり、LINEで友達と連絡できることは多くの人にとって好ましいことでしょう。
しかし注意することとして、好子が行動の原因としての役割を果たすには、「その人にとっての好子」である必要があります。
お母さんが「うちの子の好子はチョコだろう」と考えていたとしても、もしかするとその子にとっての好子はポテトチップスかもしれません。
好子が行動の後に現れてその行動を今後も増やすには、たしかに好子が「その人にとっての好子である」と確認しておく必要があることを忘れないでください。
行動の後に現れて今後もその行動を増やすことを確認するまでは、仮定の好子でしかないのです。
行動の法則の基本形│好子出現による強化
「好子出現による強化」という言葉が、今回最も伝えたいことです。
行動の法則は全部で4つありますが、好子出現による強化が一番基本的で最初の勉強に向いているので、先にご紹介します。
さて、もう一度大事な言葉のおさらいをします。
好子とは、「行動の直後に出現するとその行動を今後も繰り返し起こしやすくする刺激や出来事、条件」です。
読んで字の如く、その人にとっての好ましいこと全般だといえるでしょう。
では強化とはなんでしょうか?
強化とは、「行動を強くすること、つまり増やすこと」です。
行動を今後も繰り返し起こるようにすることが行動を強くすることだといえます。
以上を踏まえると、「好子出現による強化」とは、行動の後に好子が現れることで行動を増やすことといえます。
好子出現による強化
- 行動の直後に
- 好子が出現したり
- 好子が増加する
- という経験をすると
- その行動は将来起こりやすくなること
一番上に書いてある「行動の直後」とは、一般的には60秒以内のことをいいます。
ある行動を増やしたいと考えているならば、その行動をしてから60秒以内に好子を出すようにしましょう。
以前に「役立つ褒め方10カ条」をお話した際に「褒めるならば望ましい行動をした後の60秒以内」ということをお伝えしましたが、それはこの「好子出現による強化」の法則に基づいていました。
さらに、同じく「役立つ褒め方10カ条」において、「一番効き目のあるごほうびを探す」というお話をしましたが、このごほうびとは好子のことですよ。
これまでに、「褒めることで子どもに望ましい行動を獲得させて増やしていく」ということをお伝えしてきましたが、これは「好子出現による強化」に基づいてお話していました。
多くの子どもにとって、お母さんお父さんに褒められること、注目されることは嬉しいことです。
つまり、褒められることは子どもにとっての好子になります。
子どもが好ましい行動や望ましい行動をしたときに大人が褒めることは、その行動を将来に渡って今後も繰り返し起こりやすくするのです。
以下に、「好子出現による強化」の例をいくつか挙げています。イメージを掴んでみてください。
「ゲームをする」という行動は、ゲームをすることで楽しさやワクワク感を感じるからこそ繰り返されている行動です。
楽しさやワクワク感は多くの人たちにとって好子であると考えられます。
ゲームだけでなく、マンガを読んだり、映画を見に行ったり、ディズニーランドに行くといったような行動も、楽しさやワクワク感といった好子によって維持されている人は多いと思います。
逆に、もしゲームやマンガを読んでも楽しさを感じられなくなってしまったら、好子がなくなったといえるのでそのゲームをするのをやめたり、そのマンガを読むことはやめてしまうでしょう。
「お母さんの手伝いをする」という行動は、手伝ったことでお母さんに褒められたことから今後も繰り返されていくでしょう。
より厳密にいえば、褒め言葉だけでなく、褒め言葉を自分に言ってくれたときのお母さんの嬉しそうな表情だったり雰囲気なども子どもにとっての好子になっていると考えられます。
子どもがまだ小さいうちは(小学校高学年くらいまでは)、なるべく子どもが望ましい行動をしたときは毎回褒めてあげてください。
「お買い物でポイントカードを提示する」という行動は、カードを提示することでポイントが溜まっていくことから今後も繰り返されていくと考えられます。
おそらく、多くの人たちのお財布にはたくさんのポイントカードが入っていると思われますが、それはポイントが多くの人たちにとって好子であり、そのことが企業側の戦略に用いられているためです。
世の中は、人の行動にポイントを付与することで、その行動(例えば、買い物だったりクレジットカードを利用すること)を今後も繰り返し行わせる仕組みを作っています。
「お店でおやつを買って!と暴れる」行動は、お母さんの注目を得られることから何度も繰り返されている行動だと考えられます。
以前にもお話したことがありますが、わたしたち人間にとって「注目」というのは非常に強い好子です。
特に子どもにとっては肯定的な注目(例えば、褒められるなど)と、否定的な注目(例えば、怒られるなど)の区別はありませんので、たとえ厳しく怒られていようが「注目」であることには変わりありません。
ですので、大人からしたら「子どもが望ましくない行動をしたので叱った」としても、子どもからすれば「望ましくない行動をしたら注目してもらえた」ことになるため、今後も望ましくない行動を繰り返す可能性があります。
これが好子としての「注目」が非常にやっかいなものになる理由です。
逆に、望ましい行動に褒め言葉と一緒に注目を与えることで、その望ましい行動を今後も繰り返すようにできるのですが・・・。
今回の例は対応が難しい部類に入ります。
もしお店のおやつコーナーの前で「おやつ買って!」と暴れたとすると、最初は「買わないと約束したでしょ?」「我慢しなさい」と毅然に対応していても、周りの目が気になって「1つだけね?」と言っておやつを買い与えてしまう場合があります。
さらにこの場合、「おやつ買って!」と暴れる行動をすることでおやつを買ってもらえることを経験したわけですから、今後もおやつコーナーの前では暴れる行動が繰り返されるようになります。
つまり、おやつコーナーの前で「おやつ買って!」と駄々をこねる行動は、注目や買ってもらえたおやつによって強力に維持されていることが多いのです。
この暴れる行動への対処としては、好子出現による強化に基づけば「どれだけ暴れてもおやつを買ってあげないこと」になります。
暴れるという望ましくない行動の後に好子を与えてはいけないのです。
しかし、実際にやってみようとしても、子どもの暴れる行動はより一層激しくなります。
子どもからすれば、今まで100%のパワーで暴れていればおやつを買ってもらえていたのに急に買ってもらえなくなるわけですから、120%のパワーで暴れてくるでしょう。
なので、おやつを買ってあげないという対応は現実的ではありません。
考えられる対応としては、事前に望ましくない行動が起きにくいような準備をしておくことと、もし起こってしまった場合の対処方法を決めておくです。
あくまで例ですので、望ましくない行動への対象方法はまた今度詳しくお伝えします。
対応の一例
- お買い物に行く前に、「今日はおやつを買いません」と先に伝えておく。言葉だけでなく、おやつの上にバツをつけたイラストなども見せながら、理解できるように伝える
- おやつを買ってあげられる日があることを保証しておくことも有効な場合がある。例えば、保育園の帰りに行く買い物では買ってあげられないが、習い事の帰りに行く買い物では好きなおやつを買ってあげることを伝える。
- 事前に伝えておいても暴れる場合は、「すぐに店の外に出る」といったように対処方法を決めておく。
以上のように、好子はその人にとって好ましいことですが、好子によって維持され、繰り返されている行動までもが好ましいものとは限りません。
最後に挙げた例のように、好ましくない行動や望ましくない行動だったとしても、その行動の後に好子があるのであれば維持されてしまうのです。
まとめ│好子によって行動を強化する「好子出現による強化」
- 行動が何度も繰り返される原因は、行動の後にある
- 好子とは、行動の直後に出現するとその行動を今後も繰り返し起こしやすくする出来事や条件、刺激のこと
- 強化とは、行動を強くすること、つまり増やすこと
- 好子出現による強化とは、行動の直後に好子が出現したり好子が増加するという経験をすると、その行動は将来起こりやすくなること
いかがでしたでしょうか?
これまでお話していた「褒めることで子どもの望ましい行動を増やしていく」というのは、「好子出現による強化」という行動の法則に基づいていたものでした。
行動の後に現れる好子によって、その行動は維持されています。
望ましい行動の後に好子があればその望ましい行動は今後も繰り返されますが、逆に望ましくない行動の後に好子があってもその望ましくない行動は繰り返されてしまいます。
「どうしてこの行動は繰り返されるんだろう?」と疑問に思った際には、その行動の前ではなく後に注目してみてください。
必ず何らかの好子(原因)があるはずです。
あとがき
今回は4つある行動の法則のうち、「好子出現による強化」だけ取り上げました。
4つはそれぞれ、以下のような名称になっています。
- 好子出現による強化│好ましいことが起こることで行動が増える
- 嫌子消失による強化│嫌なことがなくなることで行動が増える
- 好子消失による弱化│好ましいことがなくなることで行動が減る
- 嫌子出現による弱化│嫌なことが起こることで行動が減る
行動は、この4つのどれかに分類できます。
さて、本文の冒頭にあったダイエットについて、「なぜダイエット行動は続けられないのか」について好子出現による強化を踏まえて説明しておきましょう。
ダイエットが続かなくなってしまう一連の流れは、以下のようになっていることがほとんどです。
- ダイエット行動(食事制限や運動)を始めた当初は体重が減りやすく、「体重が減った」ことが好子として現れる
- 「体重が減った」という好子によって、ダイエット行動は今後も繰り返される
- しかし、体重が落ちにくくなってくると、いくらダイエット行動をしても好子が現れないことになる
- 好子がないため、行動は起こらなくなる(体重が減らないため、ダイエット行動はしなくなる)
ダイエット行動を継続していくためには「体重が減った」という好子だけでなく、「毎日体重を測定して記録をつける」「誰かに痩せたことを認めてもらう」などの別の好子が必要なってくるでしょう。
もう1つ好子出現による強化に基づいた説明をしてみます。
なぜ子どもはお母さんから何度注意されても同じ行動を繰り返すのかということです。
一連の流れを見ておきましょう。
- ふざけた行動をすると、お母さんが「やめなさい!」と言って注意する。注意されて注目されることは子どもにとって最高の好子である
- ふざけた行動をするとお母さんが注目という好子を与えてくれるため、ふざけた行動は今後も繰り返される
好子やそれを用いた好子出現による強化は、子どもに望ましい行動を身につけてもらう際にとても有効です。
一方で、望ましくない行動を維持してしまうこともあると覚えておいてください。
参考文献
奥田 健次 (2012). メリットの法則―行動分析学・実践編― 株式会社集英社
杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・マロット, R .E.・マロット, M. E. (1998). 行動分析学入門 産業図書