「行動」の正体とはいったい何なのでしょうか?
普段のわたしたちが生活の中で使う「行動」という言葉と、今回お話する「行動」は違います。
しかし、行動を正しく理解できると、子どもの問題行動や逸脱行動を目の前にしても途方に暮れることがなくなり、どうしたら良いかがわかるようになるでしょう。
今回は、行動を理解するために必要な行動観察の方法についてもご紹介します。
子どもに関する困りごとを解決するための第一歩が、行動観察なのです。
行動とは「死人テスト」をクリアしたもの
行動とは、死人にはできないことすべてです。
逆にいえば、死人にできることは行動ではありません。
つまり、歩いたり、走ったり、字を書いたり、スマホを見たり、ゲームをしたり、想像したり、考えたりすることは全て行動になります。
一方、「受け身」「状態」「~しない」は行動ではありません。
叩かれる・蹴られるは、死人にもできるので行動ではありません。死人は受け身で、簡単に叩かれるし、蹴られてしまいますよね。
静かにしている・目を閉じているは、状態なので行動ではないです。死人にもできています。
大半のお母さんが困っているものとして、勉強しない・うるさくしないというのも行動ではありません。「~しない」は死人の得意とするところです。
普段聞き慣れないことをたくさん聞いたと思いますので、ここまでの内容をまとめてみます。
死人テスト
死人にもできることは、行動ではない。
行 動
死人テストをクリアできたものが行動である。つまり、死人にはできない活動は全て行動である。
死人テストと聞くと不快な気持ちになったり、ふざけているように思われる方もいるかもしれません。
「死んだ人をばかにしているのか!」と感じる人もいるかもしれませんが、死人テストは1965年に行動分析学の研究者によって考案された重要な考え方です。
行動分析学とは心理学の一分野であり、人間を含む動物の行動の仕組みや法則について明らかにする学問になります。
子どもの困った行動についても、行動分析学は大いに役立ちます。ただし、今回お話した死人テストについての知識が今すぐ役立つかというとそんなことはありません。
ですが、「行動は死人にはできないことなんだ」と頭の片隅にでも置いておければ、子どもの行動を理解しようとしたときに必ず役立ちます。
行動は具体的であれ!
何が行動になるのかは死人テストで明らかになりますが、他にも大事なことがあります。
行動は具体的でなければいけません。
具体的に捉えたほうが、いざその問題行動の解決に取りかかろうとした際にスムーズにゴールへ近づきます。
なぜ具体的であることが重要なのか、例を使って考えてみましょう。
例えば、小学校などではよくある目標として「心優しい子」とか「元気な子」というものがあります。
しかし、この目標を見ても子どもたちには漠然としたイメージはあっても具体的に何をすれば良いのかがわかりません。
「心優しい子」になるために、「一日に1回お友達に『手伝おうか?』と言う」ことが目標の行動になるかもしれません。
「元気な子」になるために、「毎日朝ごはんを食べる」ことが目標の行動になるかもしれません。
つまり、 「毎日朝ごはんを食べる」のように、目標は具体的な行動にしたほうが子どもだけでなく大人もわかりやすいので、学校の先生やお母さん・お父さんは目標を達成できているのかどうか理解が一致しやすいですし、褒めることも簡単にできます。
「元気な子」だといつ子どもを褒めれば良いのかわかりませんが、「毎日朝ごはんを食べる」であれば朝食時にさっと褒めることができますよね。
行動を具体的に捉えることで、子どもの目標を達成しやすくしたり、お母さんを困らせる行動の解決にも取りかかりやすくなるのです。
行動を具体的に捉えるコツ2つ
計測できる
その行動が一日に何回あったのか回数を数えられることは重要です。
あるいは、その行動が何秒間、何分間継続したのか計測できることも具体的に捉える際には大事なことになります。
具体的な行動とは、回数を数えることができる、または何秒何分継続したのか時間を計測できるような行動になります。
他の人もその行動を理解でき、計測できる
自分だけでなく、他の人にその行動について話したときに正確に理解でき、話を聞いた人もその行動を計測できることが重要です。
他の人がその行動を聞いても理解できず、回数を計測できないならば具体的な行動ではないことになります。
以上の2つが、行動を具体的に考える際のポイントになります。
「心優しい子」「元気な子」などは回数を数えることができませんし、何秒間持続したのかもわかりません。自分が数えられないのに、他の人だとなおさら無理でしょう。
一方、「一日に一回お友達に『手伝おうか?』と言う」「毎日朝ごはんを食べる」ことは回数を数えられますし、他の人に説明した際にもおそらく「『手伝おうか?』と言ったかどうかを見ていれば良いんだな」「朝ごはんを食べたかどうかを確認すれば良いんだな」と正確に理解できるでしょう。
行動を具体的に捉えるとは、言い換えると客観的であるともいえます。
客観的とは、誰の目から見ても明らかであり、回数を数えることができるようなものを指します。
行動は具体的であれ、客観的であれ、ということが行動を理解するうえで大切なポイントになります。
行動観察が全て│子どもの行動を理解するための「目」を養う
子どもの行動を正確に理解するには行動観察が必要です。
子どもの問題行動に困っているのであれば、行動観察が困りごとを解決するためのスタートラインになります。
死人テストや具体的であることの重要性がわかっていればあとは観察するのみですが、観察する際には大切なポイントがあります。
行動観察の手順
行動観察では、①その行動がどんなものなのか、②どんなときにその行動は出るのか、③その行動の結果、自分や周囲の人はどのように対応しているのか、という3つを観察します。
行動観察シートなどを作ってみると理解しやすいですが、紙に書いた簡単なものでも大丈夫です。後でお伝えしますが、今ではスマホのアプリもありますよ!
まずは行動を見る
行動観察する際の手順ですが、まず最初にその行動がどんなものかを紙に書き留めておくと良いでしょう。
普段から困っている、問題だと感じている行動を書くことが多いと思います。
死人テストをパスしており、具体的・客観的に捉えた行動を書きます。
ちなみに、「かんしゃくがあった」「パニックを起こした」と書くと、人によって捉え方が違ったりするので、「床に寝転んで手足を振り回して大声で叫んだ」などと書くと誰が聞いても正確に理解できる具体的な記述になります。
行動が起きる前はどんな状況だったか
次は、どんなときにその行動が起きたのかを書きます。
その行動の直前に何があったのかを思い出して書きましょう。簡単に言えば、その行動の「きっかけ」になります。
この直前の状況に何があったのかを記録できるようになると、問題行動がどのような状況で出て、どのような状況で出にくいのかがわかるようになります。
すると、問題行動を出やすい状況を減らすための対策を考えやすくなります。
行動の後に何が起きていたのか
最後に、行動の結果、自分や周囲の人はどのように対応したのかを書きます。
行動の後の対応が明らかになることによって、周囲の人の対応がその行動を強めているのかどうかを確認することができます。
行動には、行動した後の結果が自分にとって良いものだと今後も繰り返されるという特徴があります。
したがって、行動の結果、おかしを買ってもらえたり、嫌いな勉強をしなくて済んだりすると、今後もその良い結果をもたらしてくれる行動は増えていくことが多いです。
周囲の人が問題行動を強めていないかどうかを確認することは重要なのです。
望ましい行動・好ましい行動も記録してOK
ここまで「困っている行動、問題行動を記録しましょう」という説明だったと思いますが、周囲の人にとって好ましい行動だった場合にも行動観察として記録しても構いません。
というよりも、積極的に望ましい行動や好ましい行動も記録に残してください。
後で行動観察の記録を見返したときに、「思ったよりもうちの子って褒められるようなことしていたんだな・・・」「自分でできることも増えていたんだな・・・」と気づくことができます。
普段のわたしたちは、子どもたちが上手くできていることを「できて当然」と考えてあまり褒めず、できていないことに注目をしてしまうことが多いです。
ですので、行動観察で記録を残し、自分の子どものできていること、褒めるべきところを再確認しておきましょう。
子どもが望ましい行動、好ましい行動をしたときには褒めることを忘れずに行なってくださいね。
アプリを使って行動観察をしてみよう
「紙で行動観察の記録を取るのは大変・・・」という方には、スマホのアプリを用いた記録が良いかも知れません。
「Observations」というアプリがAndroid、iPhoneのどちらでも利用できます。
無料で利用できますので、試しに使ってみると使いやすいかもしれません。
アプリを開発した井上雅彦先生は、ここの管理人と同じく心理士で、発達障がいに精通されている方です。子ども本人やそのご家族に寄り添うことを第一としており、書籍も多く執筆もされていますよ。
まとめ│行動観察をして行動を理解する
- 行動とは、死人にはできないこと全てです
- 行動は具体的に、客観的に捉えましょう
- 行動観察をすると、子どもの行動を正確に捉えるための目を養うことができます
- 行動観察には、「どんなときに」ー「どんな行動が起きて」ー「どう対応したのか」という3つのポイントがあります
もしできそうであれば、死人テストや具体的・客観的に考えることを意識しつつ、普段困っている行動を記述してみてください。
一般的に、1週間~2週間分の行動観察記録があると、ある程度の子どもの傾向が見えてくることが多いです。
まずは、1日1つの行動を記録してみるところからスタートしてみましょう。徐々に行動観察する行動の数は増やしていってください。
行動観察することは、問題行動に対処するための第一歩ですよ。望ましい行動の記録も忘れずに取ってくださいね。
あとがき
児童デイサービスや発達クリニックなどの現場でも、子どもの望ましくない行動に対してはまず最初に行動観察を用いて「どんなときに」ー「どんな行動が起きて」ー「どう対応したのか」を考えることが多いです。
どのような対処をするにしても、この3つのポイントを整理します。お母さんたちにも、行動観察の結果とそれに基づく対処方法をお伝えしたり提案することがあります。
死人テストや行動観察と聞いて、難しいと思った方はたくさんいらっしゃるかと思います。
行動観察をしてみることが一番ではありますが、あまり無理をなさらずに「子どもの行動ってこうやって考えたら良いんだな~」と知っておくだけでも大丈夫です。
今後も行動観察については説明する予定ですので、一緒に少しずつやっていきましょう。
参考文献
杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・マロット, R .E.・マロット, M. E. (1998). 行動分析学入門 産業図書
山上 敏子 (監修) (1998). 発達障害児を育てる人のための親訓練プログラム―お母さんの学習塾― 二瓶社